新刊 20198

 

『日本海のはなし』

 (たくさんのふしぎ 20195月号) 蒲生俊敬/文 福音館書店

 「日本海」というとどんなイメージが浮かぶだろうか。冬には荒波と豪雪を日本に

もたらす海、イカやカニなど食の恵みを生み出している海といったところだろうか。

ところがこの本によると、日本海はたんに食文化のみではなく多様な恵みを日本列島

に与え続けているのだという。ページを繰るとまず出てくるのは夏の浜辺、夏の日本

海は比較的波静かで海水浴場も多い。次に「日本海が、わたしたちのくらしになくい

はならない、大切な役割を果たしていることを、お話します。」書かれている。日本海

にはどんな大切な役割があるのだろうか。

日本海の図がイラストで示されている。半分以上は「日本海盆」という深い海がしめ

ている。一番深い所は3800mもある。ところが、日本海の出入口は対馬海峡や津軽

海峡、宗谷海峡とあるがいずれも100m前後の深さしかない。つまり、日本海の水は

大きなプールのような水たまり状態になっていることがわかる。このことによって珍

しい現象が起きていることが後で書かれている。日本海には対馬海流という暖流が流

れ込んでいる。冬、この暖流によって温められた空気が、北からの冷たい季節風に当

たると水蒸気が生まれる。この水蒸気が日本列島の山々に当たると雪を降らせる。雪

害などで困る面もあるが、その雪のおかげで水が保たれ緑豊かな日本列島を維持させ

ている。そのことで日本列島では農耕文化がはぐくまれてきたという。

次に深さ3000mもある日本海の図が出る。深い器のような海は、冬季に表面の水が

冷やされゆっくりと対流する。おかげで深海にも酸素を送り込み豊かな生態系が維持

され豊富な漁場が生まれている。マグマの上昇によって日本海が開き、今の位置に日

本列島がとどまっていることがちょうど幸いしているという。2万年ほど前の寒冷期に

日本列島は大陸と陸続きになったおかげで、大陸から人類も移り住んで縄文文化が栄

えた。日本海が存在することの利点を改めて考えさせられる一冊である。

     20195月刊  713

『火山のしくみ パーフェクトガイド』   高橋正樹/編著   誠文堂新光社

 本書は火山に関する総合的な本である。これまでの火山の本は内容的にも「帯に短し

襷に長し」だったがそれらを乗り越えた本だと「おわりに」で自負されている。それだ

けに「火山」について、鉱物・マグマの話から噴火の形態や成因、過去の災害から温泉

に至るまで、多くの専門家も協力してまとめられたのが本書である。かなり高度な内容

もあるが、文章は読みやすく写真も多いので中学生ぐらいから読める。防災知識も含め

て一般の人や中高生には読んでほしい一冊である。

 最初に「変動帯としての日本列島」を解説している。いくつものプレートがからみあ

う日本列島の解説である。プレートの沈み込み図もシンプルでわかりやすい。続いて地

震と噴火の関連の話もある。次は「マグマはどのようにしてできるのか」の話に入る。

岩石の融解実験も入れながら、ケイ酸塩鉱物の分子イラストまで出てくる。「水がマグ

マをつくる」という話は化学的な視点で、「日本列島の下で海水がマグマをつくる」とい

う話にも広がっている。続いて火山で観察される岩石や鉱物の話が続く。岩石薄片の顕

微鏡写真が美しい。いよいよ噴火の話に入る。「噴火は発泡だ」と書いて、いろんな形の

噴火の姿が紹介されていく。ふつうは爆発的噴火が多い。しかし、恐ろしいのは水蒸気爆

発だ。これは前触れもなく突然噴火する。2014年、御岳山噴火に遭遇した写真家の写真と

体験談が出ている。命からがら下山された話には身が詰まされる。続いて、溶岩や火山灰、

降下火砕流、火砕流堆積物の話と続く。火砕流で高温の砂嵐で巻き込まれると建物も焼き

尽くされる。雲仙普賢岳では火砕流や火砕サージで多くの犠牲者が出た。さらに泥流災害

も加わった。続いて、各火山のマグマのようすが模式的に描かれて、噴火予知や温泉の話

で終わっている。

最後に特別編集として、各火山の立体地形図がつけられている。上空からのレーザー照

射によって浮かび上がらせた各火山の姿がくっきりと見られる。火山について、科学的

視点から防災に至るまで網羅的にみられる〈パーフェクトガイド〉である。

                      20191月刊   1800

              新刊紹介8月